ドレスの裾をいつもより高く上げ、ウォルターの案内で使用人室へ続く階段を駆け降りた。

 森から魔獣が数匹、街近くまで迷い込んでいるという報告を受けたのは半刻程前のこと。すぐに騎士団たちは街に向かい、このシャゼル家の屋敷の中も慌ただしく動き始めた。
 堀に水を引き、屋敷に通じる門を全て閉める。まるで星型の要塞のようになっているシャゼルの屋敷は、これだけでもほとんどの魔獣の侵入を防げるらしい。使用人たちはお互いに点呼を取りながら、地下のシェルターに向かって急ぐ。

 緊張しているのは私くらいで、他のみんなはこうして避難するのにも慣れているようだ。ここの女主人なのだからと変に気を張っていたけど、頼もしいみんなに逆に守られている。


「……東棟の避難完了しました!」
「西棟は?」
「西の大扉を閉め終わったら完了です!」

 使用人たち、こんなにいたのね……! 至るところからバタバタと人が集まってくるのを見て驚き、階段の途中で足を止めてしまった。

「奥様、階段はゆっくりで構いませんから足を踏み外さないようにしてくださいね」
「さあ、こちらです奥様!」

 初めはよそよそしかったのが嘘のように、いつの間にか打ち解けた使用人たち。自分たちの避難も顧みずに私を案内してくれる。よく訓練された動きによって、無事に屋敷全員のシェルターへの避難が完了した。
 聞けば、こうして緊急時のための訓練や避難手順をまとめたのはリカルド様とユーリ様らしい。

 若い辺境伯に期待する声も多かっただろうし、きちんとそれをサポートしてくれるユーリ様という存在もいたのだ。失踪などせず、初めからここでリカルド様が辺境伯としてやっていく道もあったのかもしれない。もしそうだったら、私は何の疑いもなくリカルド様の妻になっていたのかしら?

 今は無事に魔獣の襲来を乗り切ることが優先だと頭では分かっているのに、気付くとユーリ様やリカルド様のことを考えている。