ロンベルクの森に入って数日。

 街に魔獣が出て行かないようにするため、団を横に分散して森の中心部近くまで隈なく確認しながら進んで来た。湖の浄化も終えた。

 森の木々の根が複雑に入り組んだこの森では、馬に乗ったままスピードは出せない。一歩ずつゆっくりと隊を進めて行くのがもどかしくて、残った魔獣を探しながらつい歩を急いでしまっている。

 リゼットをそのまま屋敷に残し、辺境伯夫人としての責任まで押し付けて出てきてしまった。俺はどこまで彼女を利用する気なんだ。彼女に早く真実を伝えれば良かった。でも言えなかった。

 リゼットはリカルド・シャゼルの妻。リカルドは失踪し、俺は参列すらしていないが結婚式も執り行われた。つまりリゼットにとって、俺は赤の他人。俺がリカルドの身代わりに過ぎないのだという真実を知った今、彼女が俺と一緒にいる理由なんて一つもない。

 彼女は今頃、俺に腹をたてているだろうか。何も告げずに騙し続けた俺を軽蔑しているだろうか。

 ソフィにそうしようとしていたように、リゼットに辛くあたればよかったのか? いや、もし彼女が王都に戻ったら、リゼットにはまた辛い日々が待っている。使用人室で一人、隙間風と鍵のない恐怖と戦わなければいけない。何とかして彼女をロンベルクに留めたい一心で、曖昧な態度をズルズル続けてしまった。

 そんな俺の中途半端な態度が、リゼットを傷つけた。