騎士団たちがロンベルクの森へ入る準備が整い、あとは旦那様の号令ひとつで出発というところまで来た。森へ入る騎士たちと、街に残る騎士たちに別れ、それぞれに声をかけあってお互いを鼓舞し合っている。

 王都で楽しく食堂で働いていた頃の世界とは違うのだ。ここは戦い一つで突然命を落とすこともある緊迫した世界。

 その世界から逃げたかったリカルド様の気持ち
 身代わりなのに責任を持って自ら森に突っ込んでいこうとしているユーリ様の気持ち

 一見ユーリ様が正義に見えてしまうけれど、裏を返せばユーリ様が自分のことを蔑ろにしているということと背中合わせなのかもしれない。

 実のお母様を亡くし、異母兄たちの中で遠慮しながら育ってきたユーリ様。誰も自分の誕生日など祝ってくれないと卑屈になりながら、リカルド様の存在に救われてきたユーリ様。自分の存在価値よりも、リカルド様への忠誠心のようなものが支えになって生きている気がする。だから、もしかしてこの戦いの中でも簡単に命を賭けてしまうのではないかと不安に思ってしまう。

 ユーリ様のことを大切に想っている人はたくさんいるのに。ユーリ様はそれを知らない。

 様々な気持ちが渦巻くこの辺境の地ロンベルクで、私の心の中も渦をまいている。


 しかし、まずは騎士団の皆様が無事に戻って来ることを願おう。そして、万が一の時に備える。ここに残る騎士たちは、有事の際には街の人々を避難させて守る。私は使用人たちと共に地下のシェルターへ。辺境伯夫人として、皆の命を預かる責任は重大だ。

 大きな掛け声を交わし合う騎士団を見つめながら、自然と私の手にも力が入る。