日課のお掃除の途中、旦那様とカレン様の話を立ち聞きすることになってしまった。

 部屋の外から旦那様の声が聞こえて、はたきと雑巾を持って急いで家具の後ろに隠れる。
 そこに二人が入ってきた。

 いつもと違う雰囲気のカレン様を連れた旦那様を見た時、もしかしてこれはまずい場面に出くわしたのでは、と思った。

(神様、私何か罰を受けるような悪いことをしたでしょうか)

 ここに来た当初と違い、私は旦那様への気持ちを認識してしまったから。

 勢いで旦那様のことが好きだと口走ってしまった時、旦那様は私のことを明らかに拒否した。
 何が理由なのか分からないけど、本当に私のことを愛せないのだと思う。

 それだけでもショックだったのに、まさか旦那様と他の女性の逢引に居合わせるなんて……。
 もしこのまま何かが始まってしまえば絶対に出て行けないし、私の心が耐えられる気がしない。今のうちに名乗り出て、勝手に屋敷のお掃除をしていたことを謝ろうか。


 家具に手をかけて体を起こそうかと思ったその時、カレン様がスミレの調査結果の報告を始めた。

 ……とりあえず助かった。事務的なお話のためにこの部屋に入ったみたいだ。ホッと胸をなでおろすけど、ますます出て行くタイミングを逸してしまった。


 カレン様の話を聞くに、やはりあのスミレには毒が入っていたらしい。

 不安がよぎる。お母様の長年の体調不良の原因は、もしかしてこのスミレなの?

 でもそれなら何年も目を覚さないのはおかしい。もし私が吸ったのと同じ毒ならば、私だって数日で目を覚ましたのだ。もしかして今もお母様は継続的に毒を摂取させられているの? もしそうなら、そんなことをする犯人は誰なの?

 一度ヴァレリー家に戻らなければ。いえ、まずはグレースに手紙を書く方が早いわ。旦那様にお願いして…