リカルド様と共に、王城の控室で待つ。

 ロンベルクまで逃げてきたソフィを、執事のウォルターが連れてくるという。あれだけ王都に戻るのを嫌がっていたソフィを連れて来られるのですか、とリカルド様に聞いた私がバカだった。ソフィに王都に戻る・戻らないを選択する権利などない。

 そう、私はここにくる前にリカルド様に真相を聞いてしまったのだ。


◇◇◇◇◇


 お母様が毒に倒れたのは数年前。
 高齢のために引退する主治医の代わりに、新しい主治医がヴァレリー家にやって来た。お父様が連れてきたお医者様と聞いていたけれど、実はお父様の愛妾シビルからの紹介で来た医者だった。

 その主治医、医者というのは真っ赤な嘘で、本当はドルン領にある染物屋の男。

 ロンベルクの森で採れるアルヴィラを使って染物業を営みながら、ドルン特有のドルンスミレの毒性を高めるための加工を重ねていた。その毒はこの後、ヴァレリー伯爵家を乗っ取る計画のために使われることになる。

 染物屋の男とシビルは、実は夫婦だった。そしてソフィ・ヴァレリーは、シビルとその男との子だった。私をどこかに嫁がせた後、ソフィがヴァレリー伯爵家を継ぐ算段を立てていたらしい。



 私が生まれる前にも、シビルは使用人としてヴァレリー伯爵家で勤めていた。お母様が私をお腹に宿して悪阻で寝込んでいた頃、シビルはお父様の愛妾となった。しかし彼女は、私が生まれた直後に突然ヴァレリー伯爵家を去る。

 そして十数年後、再び使用人としてヴァレリー家に勤め始めたシビルは、お母様のお茶にドルンスミレの毒を盛った。お母様が体調を崩し始めた頃に主治医が現れ、ドルンスミレの毒を点滴に混ぜたので、お母様が意識不明となった。

 お母様の意識がなくて反対できないのを見計らって、シビルはソフィをお父様の子だと主張する。


『退職した当時にヴァレリー伯爵の子を妊娠していたが、本妻の子と同じ屋敷の中では育てられないから妊娠を黙ったまま退職して実家に戻った』


と言うのが彼女の言い分。本来は黒髪だったソフィの髪を、アルヴィラを使って銀髪に染めて。

 そしてソフィはそのままヴァレリー家の正式な娘となった。菫色の髪を持つ私の存在と対照的だったから、皆が銀髪のソフィをお父様の子だと信じた。本当は退職した後に結婚したドルンの染物屋の男との子だった、というのが真相だ。