王都へ向かう馬車には、ウォルターとソフィ、リゼットの侍女のネリー、そして俺の四人で乗り込んだ。本当は一人で馬に乗って行きたかったのだが、背中のケガを心配したウォルターに止められてしまったのだ。

 しかし俺は今、いくら背中の痛みがひどくても、馬で行けば良かったと後悔している。


「なんで私を王都へ連れ戻すのよ! わざわざこんな辺鄙なところまで一人で来たんだから! 絶対に戻りたくないわよぉぉっ!!」

「ソフィ嬢。いい加減に静かになさらないと、騒音で馬車が壊れてしまいそうです」


 大抵のことには苛立たずに対応するクールな執事のウォルターですら、ソフィ・ヴァレリーへの対応には嫌気が差している。
 ロンベルクに到着した直後はリゼットが身なりを整えてやり、丁重に扱っていたらしいのだが、リゼットが王都へ出発した途端にソフィは地下シェルターに移された。

 ……ずっと閉じ込められていたから、体力が有り余っているのだろうか。

 ソフィにはヴァレリー伯爵夫人へ毒を盛った疑いがかけられており、ウォルターからソフィにその件も説明済みだ。普通は自分がこれから裁かれるのだと知れば大人しくなりそうなものだが、彼女はこんな狭い馬車の中でも金切り声を上げながら暴れている。

 たった数日間の旅なのに、ノイローゼになりそうだ。


「……ソフィ嬢。ハッキリ言おう。少し静かにしてくれ、うるさいんだ!!」

「ちょっとアナタ! レディに向かってうるさいとは何なの?! 私はリカルド・シャゼル様の妻になるために来たのよ。アンタみたいな貧乏くさい男、大っ嫌い! 話しかけないで!」

「びっ……貧乏くさ……い?」

「ユーリぼっちゃま、落ち着いてください。大丈夫です、決して貧乏くさくはございませんよ」


 狭い馬車の中で、ソフィが髪を振り乱して俺に飛び掛かってくる。しかし、いくらケガをして動きが鈍くても、騎士の男に勝てるわけがないのだ。馬車の安全を優先するために、ロープでくくって動けないようにして座らせた。

 頭をブンブンと大きく振って、黒い髪の毛で俺を攻撃してくる。痛くもかゆくもないが、子供じみた抵抗にあきれてドッと疲れが押し寄せた。