「ユーリ様……目を覚まされましたか?」


 ウォルターの低く穏やかな声に引っ張られ、意識が徐々にハッキリとしてきた。見たことのあるような無いような天井が目に入り、少し視線をずらすと丸メガネのウォルターがニッコリと微笑む。


「……ウォルター、ここは?」
「ロンベルクのシャゼルの屋敷ですよ。リゼット様の部屋の隣の寝室です。背中の痛みはいかがでしょう?」

 身体に力を入れると背中に引きつったような痛みが走ったが、起き上がれない程でもない。腕をベッドについて半身を起こそうとすると、ウォルターが慌てて止めた。


「屋敷に戻って気を失われてから一週間程経っております。ケガはだいぶ良くなってきていますが、油断するとまた傷が開きますのでゆっくりなさってください」

「ゆっくりしている場合じゃないだろう。ウォルター、リゼットが王都に戻ったと言っていなかったか……?」


 気を失う直前、救護所の中で確かに聞いた。リゼットが王都に戻った、と。

 リゼットにとって王都に戻ることは、ただの里帰りではない。ましてや彼女がもしリカルドと離婚するつもりだったとして、それを真正面からヴァレリー伯爵に告げたら……?


「ウォルター、俺も王都へ行く」
「その傷では無理です」
「何を言ってるんだ? ヴァレリー伯爵やソフィの元に、簡単にリゼットを帰したお前が言うな!」


 自分の声がズキズキと背中に響いた。でも、こんなところでのんびりしている場合じゃない。リゼットがどんな目に合うか分からないのだ。


「……ソフィ様なら、この屋敷にいらっしゃいます」
「…………は?」
「ソフィ様ご本人が、自分の足でここに来られたのです」

 ウォルターが口にしたソフィとは、あのソフィ・ヴァレリーのことを言ってるんだよな?