季節はもう春のはずなのに、ロンベルク辺境伯領にはまだ雪がところどころ積もっている。雪の合間から少しだけ、黄緑色の葉が顔を出し始めているのが見えた。

 この場所は、これから本格的な春を迎えるらしい。

 このロンベルクの風景は本当に美しい。長い冬を経て、こうして少しずつ芽吹く草木や花々、雪の下から少しずつ現れる春の気配。

 不遇な時を乗り越えて必死に生き延びた命たちが、春の空気に呼ばれて輝きの場を得る。植物たちのそんな生命力の強さを感じて、私の心も自然と昂り始める。

 王都から数日かけて、遠路はるばるここまでやって来た。
 リカルド様は、ソフィ・ヴァレリーが嫁いでくると思っているだろう。だって私はいないも同然の娘で、社交界で存在を知られてもいなかったのだから。
 リカルド様はソフィと面識はないだろうから、やって来たのが姉の方でも受け入れてくれるだろうか。

 年頃の男性とまともに話すらしたことない私に、円満な夫婦関係を築くコツなど思いつくもはずもないのだけど、せめて険悪にはならないように努力しよう。

 シャゼル家についたら、私はすぐに花嫁衣裳に着替えて準備を整え、教会に向かうらしい。元を正せば国王陛下の命での結婚だから、皆抜かりなく準備を進めているのだろう。