「社内中、璃子ちゃんと中野専務の話題で持ちきりだよ」
「すみません」

昨日の飲み会には中野商事の社員もいたから、そうなるだろうとは思っていた。
それに、麗華が黙っているはずがないだろうし、

「別に謝らなくてもいいけれど、驚いた」
「ですよね」

現に今、荒屋さんはとっても困ったなって顔をしているもの。

「璃子ちゃんは、中野専務のことが好きなの?」
「え?」

まさか面と向かってそんなこと聞かれるとは思っていなくて、びっくり。
それに、荒屋さんから感じる淳之介さんへの嫌悪感は何だろう。
少なくとも荒屋さんは淳之介さんのことを嫌っているように感じる。

「璃子ちゃんは、茉子と俺が同期だったって理由で登生くんの父親じゃないかと思ったんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、あの人はどうなんだ?」

あの人って淳之介さんのことだよね。

「姉と淳之介さんは接点もなくて、」
「それはあの人の言い分だろ?」
「ええ、まあ」

どうしたの?荒屋さんがおかしい。
いつも見せる表面上の笑顔が全くない。

「登生くんと同じ髪と目をしたあの人のことを、まずは疑うべきだと思うけれどね」
「だって、それは・・・」

淳之介さんは姉を知らないと言った。
登生に会った時だって、全く反応しなかった。
自分の子ならもっと反応するはずでしょう。

「荒屋さんは、なぜ登生が淳之介さんの子供だと思うんですか?」

あんまり確信的に言われたから、逆に聞いてしまった。