ひらひらと落ちてきた桜の花びらがそっと、川の表面に落ちる。

穏やかな流れを着飾るように桃色が色づいて、反射して、これを世間では情緒的と言うのだとしたら。


気づける人間は限られてくるなと、思う。


それまでの自分であれば流れる時間に追い付くのに必死で、今を生きているようで過去や未来ばかり追いかけて。

こんなふうに花びらの行く末を見たことはあっただろうか。


一瞬にして散ってしまう今年の桜をゆっくり眺めることができたと満足しているうちに、気づけば高校3年の5月になっていた。



「なぁ、柊」


「なに?」


「おまえ、だれ?」



そこまでおれは軽蔑されていたのかと、とうとう中学からの同級生である男は俺のことを忘れてしまったらしい。


「は?」と聞き返す代わりに、棚から取り出した段ボールを頼まれていた番号通りに並べ替える。

こうすると受取人が来たときにすぐ出せるため、この会社の社長でもあり俺の雇い主でもある洸の父親が喜ぶのだ。



「おまえ、誰なのまじで」


「…だれって、おれだけど」


「俺ってだれ。名前は?」


「…桐谷 柊、」