塚本屋には入社五年目までの若手研究開発員による社内発表会がある。
一成さんは大学で食品の研究を専攻していたらしく、入社後もしばらくは開発部に所属していたそうだ。
今日はその社内発表会に出席するべく、私も会場のお手伝いに入っていた。
広めの会議室で机をコの字型にセットする。
発表者のためのパソコンを繋ぐ配線などを前方に準備し、マイクやスピーカーなどの機材も事前にテスト。
準備も終わるころパラパラと人が集まってきて、私は邪魔にならないように会議室の端へ移動した。
何か不備があってはいけないので、始まりを見届けてから退出するという算段だ。
「一成さん、お久しぶりです」
凛としてそれでいてはつらつとした声が響き思わずそちらに目をやると、小顔でスクエア型の眼鏡がよく似合う知的な女性がにこやかに一成さんへ挨拶をしていた。
髪を一つにまとめ清潔感があり毛先はゆるりとウェーブがかかっていて歩くたびにふわりと揺れる。体形はスラリとしていて片手にはモバイルパソコンを持っている。
彼女は「副社長」でもなく「塚本さん」でもなく「一成さん」と名前で呼び、嬉しそうに駆け寄った。
それに対して一成さんはというと……。
「ああ、高田、頑張ってるみたいだな。今日の発表楽しみにしてる」
と、非常に友好的な態度。
一成さんが社内の、それも女性に向けてそんな風に話している姿を初めて見て、私の心はザワザワと揺らぎだした。