日課となっている一成さんとのモーニングを終え始業時間をむかえると、普段と何ら変わらない日常が始まった。

秘書室の朝礼に出てからそれぞれ仕事に取りかかる。
私は隙間時間に、先日行った食品イベントでのレポートまとめに取り掛かった。

たくさんのパンフレットと走り書きのメモを読み返しながら、思い出されるのは一成さんとのことばかり。

日帰り出張の予定が宿泊に変わり、そして何よりも想いが通じ合って恋人になったこと。
まだ夢を見ているような気持ちでふわふわとしていて実感がない。

だけど気を抜くと頬が緩んでいる自分がいる気がして、時折我に返って気を引き締めている。

京都ではあんなに甘かった一成さんも、今朝のモーニングでは至ってクールだった。
モーニングといっても塚本屋のカフェだから社内だし、わきまえているということかもしれない。
だから浮かれているのは私だけのような気もする。

ずっと席を外していた時東さんが戻ってきたのを見て、私は紙袋を持って席を立った。

「時東さん、これお土産です」

「あら、ありがとう」

今しがた来客対応をしていたとは思えないほど優雅な笑みを称えた時東さんは、見てもいいかしら、と丁寧に包みを剥がしていく。

「千枚漬けね。私これ大好きよ 」

「本当ですか。よかったです」

喜んでもらえてほうっと胸をなでおろす。

一成さんの出張同行は完全に時東さんの計らいだったので、何かお土産をと悩んでいた。
時東さんの好みはまったくわからなくて一成さんに尋ねてみれば、甘いものよりしょっぱいものが好きだというので、ちょっと渋いような気がしたけど千枚漬けに決めたのだ。

時東さんはちらりと時計を確認する。
ちょうど十時になるところだ。

「なんか疲れちゃったわね。ちょっと休憩しましょう」