◆ side鼓



この世で、唯一。



「……何イライラしてるん、越」



「あ? 別にしてないけど」



「いやめっちゃ嘘やん」



越を振り回せるのは、雫ちゃんだけだ。



──越が雫ちゃんに会いに行った、翌日。

数時間前にはわざわざ俺らに指輪を渡す瞬間を見せつけてたはずやのに、家に帰ってきてからホンマか?って思うくらいに機嫌が悪い。



瑠里のせいか?

……でもさっきもわがまま言われて適当に帰らせてたはずなんやけどな。




「強いて言うなら、

お前が勝手に家に上がり込んできて不快なくらい」



「あ、原因俺やった感じ? ほな帰るわ」



「……、」



くそ。ボケるんやったら最後までやり遂げてくれへん?

ノリノリで応えた俺がアホらしいやんか。



「どうせ雫ちゃんのことやろ」



慣れ親しんだ越の家。

両親がほぼ帰ってくることの無いこの家は、俺がよく入り浸ってる。……まあ雫ちゃんと越が付き合いだしてからは、ほぼ来てへんかったんやけど。



キッチンにある冷蔵庫から、勝手に炭酸水を拝借。

500mlのペットボトルの中身をグラスふたつに分け入れて、片方を越に手渡せば無言で受け取った。