◆ side静



「ねえ、越、どこ行ってたの?

瑠里香のこと昨日から放って……まさか、別の女?」



「……そんなこと一言も言ってないでしょ。

そもそも瑠里と昨日会った時に、用事で今日帰れるか分からないってちゃんと伝えたよね?」



「だって、さみしくて……」



たまり場にたどり着き、開き掛けのシャッターの下を潜って中に入ると、言い争っているのは越と瑠里香。

瑠里香が幹部室に入れないせいで最近は越がずっと下にいて、めんどくさい瑠里香の相手を続けてる。



雫の話題は暗黙の了解のように、瑠里香の前では出さない。

ただ、遠巻きに瑠里香と越のやり取りを見ている下っ端も、瑠里香をよく思ってないのは事実だった。



「おはよう静。めずらしいね、昼から来るの」



朝顔7代目の姫は、雫。

その雫が南へと行った途端に姿を現した女、瑠里香。




「……はよ」



できればスルーしてほしかったが、越が瑠里香のことなんて見えてないみたいに話しかけて来たせいで、返事せざるを得なくなる。

後の言葉には答えることなく2階に上がると、無意識にため息が漏れた。



「っあームカつくぅ!!

毎日毎日ルリルリってうるさいんだけどぉ!?」



ドアを開けた瞬間、豪速球で飛んでくるハルの愚痴。

なまじ声が高いのもあって、頭にキンキンと響く。



「おはようさん、静。

はーる。気持ちもわかるけど落ち着きぃや」



「やだ……! てかうざい! むり!

雫ちゃん以外の女がここにいるとか無理……!」



鼓の言う通り、ハルの気持ちもよくわかる。

雫は越が連れてきたその当初から、誰からも好かれる性格で、それに見合うだけの優しさと思いやりを持ち合わせてる。