◆ side遥人



「越……! 大変やで!」



バタバタと。

勢いよく幹部室に飛び込んできたのは鼓で、その音の大きさに思わず目をやった。雫ちゃんがいなくなって寂しがってるのは、ほとんどハルだけで。



「大変?」



「そや! 彼岸花が姫の宣言出しよった!」



ほかの4人には、当然のように流れていく日常。

……さすがにちょっと薄情じゃない?



「姫の宣言って……もしかして雫ちゃん?」



何事もないかのように進む時間の中、今日もムスッとしながらパックドリンクのストローを咥えた。

『飲むバニラ』。ソフトクリームをそのまま溶かしたような味がする。バカ甘い。




ケンちゃんの問い掛けに、えっちゃんは「そうだろうね」と冷静に返す。

彼女を危ない目に遭わせてまで向こうに送り込んだんだから、もうちょっと焦るとかしたらいいのに。



……まあ?

えっちゃんがそんな姿見せるなんて想像つかないけどぉ。



「……もうそこまで潜り込んだのか」



「初っ端から目付けられてたし、まあ当然の結果でしょ」



「ほんまモテるなぁ、あの子」



「だから、誰の女だと思ってんの」



別にハルは、えっちゃんのことが嫌いなわけじゃない。

特に、雫ちゃんのことを心の底から大事に思ってるえっちゃんのことは好きだ。