「――あつい!」


 大きな声でそう叫びながら突っ伏したのは、志貴(しき)。俺は久しぶりに店を開けようと、カウンターの中で開店準備をしていた。ちゃんと店を開けるのは何日ぶりだろう。最近では開いている事の方が珍しくなってしまった。


「ねえねえ、(なぎ)さん! 何でこの店こんなに暑いの? 夏なんだから、窓開けるだけじゃなくてエアコン付けようよ~! ここ、一応お店なんだし!」

「うるさい、夏は暑いもんだ。かき氷出してやったんだから、文句言うな」


 そうは言っても、志貴はさっき出してやったかき氷なんてとっくに食べ終えてしまっていた。こいつ、体は小さいくせに食欲は無限。これが成長期ってやつか、恐ろしい。恨めしそうに空になったガラスの器を両手で握ってこっちを見ている。

 今日はまだ志貴しかいないが、一応俺がオーナーをしているのこの店『カフェバー ファントム』は、不知火(しらぬい)という大きな暴走族の溜まり場になっている。この志貴もチビで頼りなさそうだけど、その不知火の幹部だ。


 それに――俺も、以前はその総長だった。


「ところでお前、何でこんな昼間っからここにいるんだ。サボりか?」

「違いますよ! 明日から夏休みだから、学校は午前で終わりなの!」

「ああ、そうか……もう、夏休みなのか……」