里山リトミック幼稚園は、市街地から離れた静かな場所にある。すぐ裏手には小高い丘があり、自然豊かな立地だ。

幼稚園では珍しく音楽教育に力を入れており、年長にもなると鍵盤ハーモニカを吹いて鼓笛隊の練習がある。

子供たちの明るい笑い声と楽しそうな音色が響き渡るこの場所で、春花は保育士として働いていた。

天気の良い日は園庭で園児たちと走り回って遊んだりミニ農園と称した畑で植物の観察をしたりする。

自然の中に溶け込んだ穏やかな日常は、春花の心を柔らかく包んで癒してくれていた。

「春花先生~!」

「はーい」

呼ばれて振り向けば、同じ学年の別のクラスを受け持つ亜子先生が血相を変えて走ってきたところだった。

「どうしたんですか?」

「さっきから園のまわりをうろうろしている人がいるの。これってヤバイと思わない?」

「えっ?不審者ってことです?」

「うん、わかんないけど、そんな感じ」

「じゃあ急いで子供達を教室に入れなくちゃ」

「春花先生は子供たちの誘導と、警察に電話する準備をして。私はちょっと様子見てくるね」

「はい!」

春花は動揺する胸を押さえつつ、園児たちに声をかけ園舎へ避難させた。様子に気付いた園長たちも通報の準備をする。

そして騒然となる中、息を切らせて戻ってきた亜子先生は、先程とはうって変わって高揚していた。