「咲凛、今日は夕飯いらない」

 妃香さんからのメッセージを見てしまった翌週の金曜日。いつものようにお弁当を手渡す私に、昴生さんがそう言った。


「そうですか」

 不自然にならないように。そう思うのに、妃香さんのメッセージが頭を過ぎって頬が微妙にひきつってしまう。

 もしかして、今夜どこかで会う約束を……?


「誰かと飲みにでも行くんですか?」

「あぁ、優生に呼び出された」

 少し探るような目で訊ねると、昴生さんが面倒くさそうに眉根を寄せた。


「優生さん……」

 口の中で、TKMグループの役員でもある昴生さんのお兄さんの名前をつぶやく。

 昴生さんが優生さんに誘われてご飯を食べに行くことはこれまでもときどきあった。仕事の関係で、同僚と飲みに行ったりすることも。

 今までは何の疑いもなく昴生さんのことを信用して、夕飯はいらないと言われても一緒に食事する相手まではたいして気にならなかった。

 それなのに、妃香さんから届いていたメッセージが私を疑心暗鬼にさせる。

 今夜は本当に優生さんと──……?

 少し眉を寄せた私が機嫌を損ねたと思ったのか、昴生さんがぽんっと頭に手をのせてくる。


「なるべく早く帰る」

 昴生さんにそう言われて、やっと少し猜疑心が晴れた。

 もし今夜会う相手が妃香さんなのだとしたら、私にそんなふうには言わないはずだから。