「すまない、ソフィア。こんなところへ呼び出してしまって。さぁ、中へ入ってくれ」

 うれしそうなキースの顔を見ると、私も思わず笑みがこぼれる。

 キースの机の上には、この前の二倍近い書類が右と左に分かれて乗せられている。

「お忙しいなら、また今度にいたしましたのに」

「ここはもう、誰もいないから普通にしてくれ。なんだか、そのしゃべり方をされると落ち着かない」

「そうですか? いつもキャーキャー言う女の子たちにばかり囲まれていたから、てっきりこの方がいいのかと思いましたよ。仕事、ずいぶんありますが、大丈夫なんですか」

「いや、あんまり大丈夫じゃない……。でも、会いたかったんだ」

 そう言って真っすぐに見つめられると、嫌みの一つも思いつきはしない。

 今まで私にそんな言葉をかけてくれる人なんて、家族ですらいなかったのだから。

「この前、ソフィアが税をと言っていたのを書類にまとめたんだが、それについての具体的な金額や計算といったものも、多数上がってきてしまって。グレンにもやらせているのが、何分処理する書類が多くてね。本当だったら、今日はソフィアと何か贈り物を一緒に見に行きたかったんだが」

「グレンに書類を押し付けられ、逃げられたと」

「そうなんだ。婚約者が花嫁衣裳を作るのに顔を出しに行かないといけないからと言われてね」