部屋にはランプがともされており、テーブルには夜会で食べられなかったであろう私のために夜食が置いてあった。

 実際、今まで何も食べていないので、お腹が空いていたところだ。

 ルカに感謝しなければと思いつつ、パンに手を伸ばす。窓の外はすっかり夜の帳が下り、月が庭を明るく照らしている。

 ベッドの縁に座り、パンを頬張る。フランスパンのように硬めのパンだが、ほんのり甘い。

 ふと、パンを持っていない反対の手を見た。急にキースが手にキスをしたことを思い出す。

「んー、ばかばかばか」

 手を一生懸命振り、遠ざける。しかし自分の手は、もちろんどこかに行くはずもない。

 こんなことして、遊んでいる場合ではない。

 キースが家に求婚に来ると言っていかが、もしそれが本心なら困ったことになる。

 今の状況のミアの前にキースを出すのは、いろいろまずいだろう。

 あの性格だから、きっとキースの前では露骨に敵対心を燃やすようなことはないだろうけど。

 でも、今までみたいにキースに媚びを売られて、もし、キースの心がミアに行ってしまったら。

「はぁ。何考えてるんだろう、私……」

 別にすごくキースが好きというわけではない。

 ただ、自分を好きだと言う人がミアに全部取られてしまうのは、やっぱり面白くはない。