侯爵邸へ戻ると、入り口ホールではミアが待ち構えていた。

 両腕を組みをして仁王立ちしている姿を見ると、まるで夜帰りの遅い旦那を待つ妻のようだ。

「ずいぶん遅かったですわね、お姉さま。夜会で何かあったんですの?」

「用事だ。そんなことよりこんな時間まで、こんなところにいたら風邪を引くだろう。いくら姉さんのことが大好きだからといって、お前には決まった方がいるんだ。姉ばかり追い掛け回していると、愛想をつかされてしまうぞ」

 誰が見ても不機嫌だと分かるその様は、さすがに妹に甘い父でも苦言を呈す。

 父から見て、私を目の敵にして追い回すミアは、仲が悪いというのではなくそんな風に映っているのか……。

 見方や見る人が変わると、こうも180度違うものなのかと感心してしまった。

「お父さま、別にわたくしは姉さまを追い掛け回しているわけではないですわ。ただ、わたくしの婚約者であるグレン様と一緒だったと聞いて、居てもたっても居られなくなっただけです。勘違いしないで下さい」

「ミア、私はグレン様が私に紹介したい方がいるとおっしゃったので、その方とお会いしていただけよ」

「誰なんですか」

「王弟殿下であられる、キース様よ」

「まさか、お姉さま、グレンさまの紹介で殿下と婚約なさるんですの」

 勘がいいというかなんというか。

 ただミアは自分の婚約者よりキース様の身分が高いことが、よほど気に食わないらしい。ヒステリックにも近い声を、ミアが張り上げる。