外に出ると、夜風は思っていた以上に冷たい。

 外套がなければ、確かに風邪を引いてしまいそうだ。

 急いで父と馬車に乗ると、馬車はゆっくりとした速度で夜道を進み始める。

「ソフィア、いつから殿下とは知り合っていたんだ」

 沈黙を先に破ったのは、父だった。

 馬車の椅子に深く腰掛け、やや困ったような顔をしている。

「いつと言われても、この前カフェで一度お会いしただけです。今日はグレン様が私と殿下を引き合わせたいと言われて」

「で、今日婚約を申し込まれたと」

「はい……」

「そうか」

「お父様、一つお聞きしてもよろしいですか?」

「ああ、なんだ?」

「先ほど、お父様は殿下のお立場をとおっしゃられましたが、あれは王族としてのお立場ということですか?」

「……」

 父は考えるように、片手で額を押さえる。

 聞いてはいけない質問だったのだろうか。

「ああ、いや……そうだな……。王族としてという意味ではないんだよ」

 肩を落とし、小さくなる私を見た父が慌てて答える。