そう言われ、のぼせていた自分が恥ずかしくなる。

 今までモテたことはない。

 しかしこれはモテたわけではなく、ただからかわれただけ。

 恥ずかしさは、だんだん細やかな怒りに変わる。

「お戯れはお辞めください、殿下。私は殿下のとこの猫たちとは、違いますから」

「そんな意味ではなかったんだが。グレン、ソフィア嬢を怒らせてどうするんだ」

「殿下のそのキャラのせいです。僕のせいではありません。ソフィア、この中は僕たち3人だけだ。いつも通りで構わないよ。殿下に気を使う必要性は全くない」

 宰相候補にも関わらず、随分な物言いである。

 しかしそれは逆に、それほどまで2人の仲がいいとも言える。

「そうですか……。で、グレン、なぜ私はここへ連れてこられたの?」

「言っただろう。会わせたい人がいると」

「それがこの殿下なの?」

「なんだかトゲがある言い方で、俺は悲しい」

「ご自分の日頃の行いではないのですか、殿下」

「キースでいいよ、ソフィア嬢。敬語も必要ない」

「……キース様……。では、私のこともソフィアとお呼び下さい」

 王弟殿下をまさか名前で呼ぶ日が来るとは思っても見なかった。

 しかし、よそ行きではない言葉でしゃべる会話は、夜会などより私はよっぽど楽しい。