「今日一番の楽しい話だな。しばらくこの話題で笑えそうだ」

 少し、言い過ぎただろうか。でも、妹の婚約者であるグレンと恋人だと言われ、思わず言い返してしまった。

 もっとも、近くで見てきた私が言うのだから、ほぼ間違いはないと思う。

 やっとの思いで、踊りきると礼をする。

 これで失礼させてもらおうと思った時、グレンがやって来た。

 そういえば、誰にも引っかけられないように釘を刺されていたな。
 
 それなのに、私は殿下と中央で踊っているなど、嫌味が飛んでくるに違いない。

 そう思っていた私にかけられた言葉は意外なものだった。

「紹介する前に、もうそんなに仲良くなったのですか?」

「ああ、グレンか。今ちょうど彼女を口説いているところだ」

 「……」

 それこそ不敬罪に当たるのではないかと言わんばかりに、呆れたような顔をグレンが向ける。

「露骨すぎだろ。こんなに美しい人を口説いて、何が悪い」

「はぁ。まったく、あなたという人は……。とにかく、奥へ行きましょう」

 グレンは殿下の言いたいことなど意に介さずと言わんばかりに、歩き出す。広間集まった大勢の人たちの隙間を抜けて、奥に進み出した。どうやら、どこか落ち着けるところでということらしい。