「あ、青になったよー。早く渡っちゃお」

 ややうつむいて、ぼんやり考え事をしていた私に瑞希が声をかけた。

 先ほどの問など、もうどうでもいいようなにこやかな声で。

 たぶんこういうところも、陰キャや陽キャなどと言われるのかもしれない。

 さっぱり忘れる瑞希と違って、ぐずぐずといつまでも私は考えてしまうから。

「やだぁ、雨降ってきたしー。傘ないのに、最悪」

 信号を渡り始めたあたりで、ぽつぽつと雨が降ってきた。

 先ほどまでせわしなく鳴いていた蝉の声は消え、アスファルトから雨の匂いが立ち込める。

「もー、急がないと」

 瑞希が小走りで信号を渡り出す。

 つられるように走り出した私の目に、横から来るトラックが見えた。

 向こうの側の信号はまだ赤だ。

 それなのに、携帯か何かに気を取られているのか、トラックがスピードを緩める気配はない。

 嫌な予感と共に、自分の周りのすべてがスローモーションで進み出した。