本来、貴族間においてドレスはよほど親しい人の何かの記念か、婚約者などにしか送ることはない。

 それをわざわざ、婚約者のミアと、その姉でしかない私に送ったのだ。

 ミアからしたら、これ以上におもしろくないことはないだろう。

 母が手早くルカに箱を渡したのは、ミアが怒りのあまりドレスを台無しにしてしまうと思ったからに違いない。

 ルカはそんなことなど気にする様子もなく、手早く中の包みを解いてゆく。

 中に入っていたのはド濃紺からゆっくりと朝焼けのような茜色に変化するグラデーションのドレスと、それに合わせた編み上げのヒールが入っていた。

「まぁ、すごい。これは、最近出たばかりのフィッシュテールドレスですよ。しかも、オーダーメイドの。さすが、公爵家は違いますねー。他の令嬢もこのドレスを手に入れるのに半年以上待ちなのだと聞きましたよ」

 ルカが取り出したドレスを合わせて、私は鏡の前に立つ。

 この一枚だけでいくらするのだろう。シンプルに見えるものの、一枚のシルクを染め上げているドレスだ。

 考えただけでも、恐ろしい。

「でも、これ、私着ていくの? 噓でしょ、グレン。嫌がらせにもほどがあるわ」

「そんなことないですよ、王都では今一番の流行の最先端ですし、足の細いソフィアお嬢様くらいしか着こなせない一品ですよ。しかも、フルオーダー品なんて」

 公爵家の急ぎの品となれば、どこの貴族を差し置いても先に作られる。

 しかしなぜよりによってこのデザインなのだろう。鎖骨が見えるくらいの胸の開きはまだ我慢出来る。

 問題はこのドレスの短さだ。前丈が膝上になっていて、後ろが床につくか付かないかの長さなのだ。