今回、グレンとミアが結婚することになれば、グレンがこの侯爵家を継ぐことになり、二人はこのままこの屋敷に住むことになるだろう。

 そうなれば私は母について領地へ戻るか、王都に残りたければ、ここで仕事を探さなければならない。

 王城で勤める父に口を聞いてもらうのが一番なのだけど、父は女の幸せは、結婚して家に入り静かに暮らすことだと思っているような人だ。


 結婚適齢期真っただ中の私が仕事をしたいなどと言えば、いい顔をしないどころか最悪領地に閉じ込められて、お見合いコースだろう。

 さすがにそれはキツイ。

 会ったことも、会話したこともない人と結婚するくらいならば、独身でいいのだけど。

 そのためにも父に何か言われる前にちゃんとした仕事を見つけてしまわないとダメだ。

 手紙だけでは心もとないから、今日は街に出て今の情勢や流行りを確認していこう。

 手紙を書く手を止め、椅子に座ったまま伸びをする。

 考えてみたら、今まで街で買い物などしたことはあっただろうか。

 いつも王立図書館へ行く道を馬車から眺めたことはあっても、降りたことはない。

 幼い頃は母に連れられて行ったことはあったものの、もうほとんど思い出せないような昔だ。

 ましてや一人で買い物すらしたこともない。

「やだ私、完全に箱入り娘だわ。このままだと、一人で生きていくのか難しそうで、マズいわね」

 貴族の令嬢はそんなものなのだろうか。

 いや、従者を連れて買い物くらいは行くだろう。

 お金の使い方すら分からないと、仕事どころの騒ぎではない。一人暮らしすら、絶対に無理だ。

 そういえば、この世界には財布はない。代わりに巾着のようなものに、みんな硬貨を入れている。

 もう少しかわいいものがあれば売れると思うんだけどな。

 でも、基本的な令嬢がするような裁縫は得意ではないので、今度誰かに頼んで作ってもらう方が良さそうだ。

 引き出しからお金の入った袋を取り出す。

 お小遣いのようにもらったものを、今まで使ったことがないためそのまま無造作にしまい込んであった。

 中には、銅貨・銅板・銀貨・銀板・金貨が何枚も入っている。

 まず、それぞれの価値がわからなければ使いようがないな。