自分の周りのすべてがスローモーションで進みだす。

 瑞葉はと、それだけが急に怖くなり振り返る。

 しかし瑞葉がわたしの手を掴むと、引き寄せた。

 その瞳はただ必死にわたしだけを見ている。

 幼い頃に戻ったような気分だ。

 怒っていない瑞葉の瞳を見たのは、いつぶりだろうか。

 わたしはずっと……。

 そう。この瞳が見たかった。

 この瞳にわたしを写していたかった。

 わたしをわたしとして真剣に見てくれるただひとつの……。


 ドスーンという大きな音が耳をつんざく。


 目の前が一瞬真っ暗になり、目を開けるとそこには目を閉じた瑞葉の顔があった。

 体の全てがただ熱く、身動きも取れない。

 でもその中で確かなことは、アスファルトへ広がっていく真っ赤な赤い瑞葉の血液。


「……なんで……」


 その疑問にもう瑞葉は答えない。

 なんでわたしを助けたの。

 わたしのこと、ずっと嫌っていたはずなのに。


「いやだ」


 わたしの願いは一つだけ。

 わたしを置いて行かないで。


「わたしを一人にしないで……瑞葉……」