ややうつむいて、ぼんやり考え事をしていた瑞葉に声をかける。

 暗い感情を押し殺し、ただにこやかな声で。

 そう、いつものように。


「やだぁ、雨降ってきたしー。傘ないのに、最悪」


 母の言ったいことは正解だったのか。

 入れてもらえる人なんていないのだから、見栄を張らずに折り畳み傘でも持ってくれば良かった。


 信号を渡り始めたあたりで、ぽつぽつと雨が降ってきた。

 先ほどまでせわしなく鳴いていた蝉の声は消え、アスファルトから雨の匂いが立ち込める。


「もー、急がないと」


 わたしは小走りで信号を渡りだす。

 そこに微かに、横から来るトラックが見えた。

 向こうの側の信号はまだ赤だ。

 それなのに携帯か何かに気を取られているのか、トラックがスピードを緩める気配はない。

 トラックには気づけても、この距離ではわたしはもうどうすることも出来ない。

 ……どうでもいいや。

 全てに疲れてしまった。

 心の中で、わたしは小さくため息をついた。