「お母さん」

「なぁに、瑞希」

「夏休み、どーする?」

「そうねぇ、やっぱり今年は海の見える旅館で温泉に入りながらゆっくりしましょう」


 母はいつもわたしのことを気にかけてくれた。

 双子のうちのわたし一人だけ。母は元々とても不器用な人だった。

 しかし双子のわたしたちを産み家庭を省みない父の代わりに一人で育てるうちに、母は心に病を抱えてしまっていた。


「瑞希はいつまで経っても甘えん坊ね。母さんがいないと、全然ダメじゃない」


 これが母の口癖だ。

 でもわたしは母の腕に自分の腕をからめ、甘える。

 違う……甘えたフリをする。

 母が望む子どもを演じていれば、わたしだけは愛してくれるから。


「だって、母さんが大好きなんだもーん。でも、ホントにいいの? 瑞葉は誘わなくて」

「あの子はいいのよ。自分で何でも出来るから」

「ま、そーだね」


 これは本当のことだ。

 いつも瑞葉は、なんでも器用にこなすことが出来る。

 わたしが何度も何度も努力してやっと出来ることでも、すんなり出来てしまうのだ。

 そして何より、この関心を示さない父と母の元でも、瑞葉は誰よりも強く輝いて見える。


「さあさあ、遅刻するわよ。お弁当持った? 忘れ物ない?」