「そんな、大丈夫です。さ、さすがに、このままお膝の上なんて」

「嫌か?」

「い、嫌ではないですが……」


 そう好きだと自覚した瞬間から、キースに触れあうのは嫌ではないのだ。

 歩く時は手を繋ぎたいと思うし、抱きしめられると心地いいのだ。

 だから余計に困る。まだ正式に婚約が決まったわけではないのに、

 さすがにこれはまずいだろう。

 きっとお父様が出迎えていたら、びっくりして倒れてしまうわ。


「私にもキース様にも最低限の貴族としての体面があります。馬車が着いたら、エスコートして下さいますか?」


 キースの顔を見上げると、キースの顔もほんの少し赤い。

 ドキドキしているのは自分だけではないという事実が、ほんの少し安心させてくれる。


「ふふふ」

「ん?」

「なんでもありません」


 私はキースにもたれ掛かり、体を預けた。