――通りゃんせ 通りゃんせ ここはどこの――



 信号が青に変わる音がして、前を向いた。

 数歩先を、母と手を繋いだ瑞希が歩いている。

 いつもの光景だった。

 私が信号を渡らなくても、母が振り返ることはない。

 ただ瑞希だけを見つめ、二人で楽しそうに信号を渡っていく。


 母は決して、私が嫌いなわけではない。

 ただ不器用な人で、同時にいくつものことをこなすというのが苦手は人だ。

 そして甘え上手な瑞希は、常に母にべったりだった。

 そんな関係性から、母は瑞希の面倒を甲斐甲斐しく見た。

 私が自然と自分のことを自分でこなすようになるのに、さほど時間はかからなかった。


 迷惑をかけなければ、自分で全て終わらせれば、母が褒めて可愛がってくれると信じていた。

 でも現実はあの子は何でも自分一人で出来るからいいのよと、捨て置かれた。


「お母さん……」