「逃げたところで、婚約の話を進めなくてはいけないのに、ミアはどうする気なのか……」

「今回、この事態を知っているのは私とお父様だけです。大事にならなければ」

「そういう問題ではないんだよ、ソフィア。根本的にミアが変わらなければ、この先必ず同じことを繰り返す。その時、離縁という形になって、困るのはあの子自身だ」


 確かに、この世界では貴族の女性は婚約者や配偶者以外とは二人きりになってはいけないという暗黙のルールがある。

 前の世界では普通に出来たことも、ここではしてはいけないことが本当に多い。

 記憶が戻っているミアなら、それを堅苦しいと思うのも仕方ないことではあるのだろう。


「体の具合はどうだい?」

「熱も下がったのですが、まだ体が少し重たいです」


 全ての報告が終わった後、気が抜けたのか私は熱を出してしまった。

 熱は頂いたお薬ですっかり良くなっているのだが、一人になるとどうしてもあの時の光景を思い出してしまうのだ。


「ゆっくり休むといい。ミアの婚約が決まってから、ずっとバタバタしていたから疲れが出たんだろう」

「そうかもしれません」

「殿下におまえのことを聞かれたが、風邪を引いて休んでいるとだけ伝えてある」