「何を分からないことを言っているの? それより、私はなんで部屋で寝かされていたの? 確か馬車でどこかに向かって……」

「えー。そこの記憶もないの、姉さま。頭打ったから、余計に……」

 口元を抑えて、クスリと笑う。

 見る人から見れば、可憐な少女なのかもしれない。しかし、私には悪意しか読み取れない。

「ミア、あなた」

「やだぁ、そんな眉間にしわを寄せて、怖いお顔。そんなだから、夜会でも男の方が寄って来ないのですよ。んーとぁ、なんでしたっけ。そうそう、氷の姫君。姉さまはそんな風に呼ばれていましたよね。もっと愛想をふりまかないと、そんなんじゃ、貰い手なくなっちゃいますょ」

 考えなくても私の二つ名など知っているはずなのに、本当にわざとらしい。

 私だってこの不名誉な名をずいぶん前に付けられたことは知っている。

 だけど、ミアのように愛想を振りまく方法なんて知らない。

 そう過去においてだって、愛想よくするなんてことをしたことがないのだから仕方ないじゃない。

 この世界では、貴族の女性として生まれた以上、良家に嫁ぐことが最も幸せなことだと言われている。

 最もどころではなく、貴族の女性は結婚できなければ行くあてなどないに等しい。