「安楽死できる機械のボタンがあったら押しますか?」

 もしそう質問されたら私は「イエス」と答えるし、そのボタンが与えられればすぐに押したい。
 でも押すだけで安楽死できるボタンが空から降ってくる魔法のような出来事なんて起きないことくらい、高校二年生の私は分かっていた。もう子供じゃないから。

 だけど、魔法のような出来事が起きるわけないのなら――目の前にいるこの不思議な存在は一体何?

「よー待ってたぜ」

 帰宅すると、自分の部屋に若くて綺麗な顔立ちの……背中から黒い翼が生えた男がいた。
 奇妙なデザインの黒い服を身に纏っていて、勉強机にふんぞり返って座っている。

「えっと……、誰?」
「俺は死神だ。矢野楓(やのかえで)、お前を地獄へ連れて行く」

 はぁ? 何意味不明なこと言ってるの? ヤバイ奴だ。きっと泥棒だ!

「……お母さぁぁん! 泥棒ー! 早く警察に通報してー‼」

 部屋を飛び出し、一階の台所にいるお母さんに叫ぶ。
 お母さんはすぐに階段を上って二階にやってきて、私の部屋を見渡しこう言った。

「どこぉ?」