足早に廊下を駆けていく足音、遠くから聞こえてくる部活動生の声、窓の外からはカラスの鳴き声がして、そろそろだ、とある人の顔が浮かんだ。

毎週火曜日の放課後、彼は決まって私が今いる生徒会室にやってくる。



「せんぱい」


――――ほら、今日も。



ガラリと音を立ててドアが開いたかと思えば、柔らかな声で私を呼んだ。

ほんのすこし舌っ足らずなその響きは独特な甘さを含んでいて、だからなのか、いつもそうやって呼ばれる度、胸のあたりが擽ったくなってざわざわする。けれど悟られるわけにはいかないので、隠すように笑顔を貼り付けて声の方へと顔を向けた。



「才原くん、ノックはしてって言ってるでしょ?」



視線を移した先にいたのは、才原詩音(さいはらしおん)くん、同じ高校に通うひとつ下の男の子。


もともと色素が薄いのか、瞳の色も髪の毛も光が当たると透けてしまいそうなほど淡い茶色で、どこにいても目を引く美少年だ。


そんな才原くんは私の注意など意に介していないようで、無断で私の隣の席に座ると、くあ、と欠伸をこぼした。その拍子に瞳に涙の膜が張って、よりいっそうキラキラ光る。