深く、深く深呼吸をする。

 神経を研ぎ澄ませて、握った拳に力を込める。

 そして短く吐いた息とともに拳を前に突き付けた。


「せい!」

「うん、まあまあだな。でも(りき)み過ぎだ。少し力を抜け」

「はい!」


 学園祭も終えると、あたしは岸対策のために空手を教わっていた。


 岸――あたしに執着してるド変態。

 唯一、あたしが血を吸われた吸血鬼。

 あいつは捕まっていない以上またあたしの前に現れるだろう。

 そのときは――。


 絶対あの顔面殴ってやるんだから!!


「はっ!」

「だから力み過ぎだ。愛良を見習え、姉なのに妹に負けてどうする」

「うっ……すみません」


 岸のことを考えるとどうしても怒りが前面に出て力が入ってしまう。

 あたしはゆっくり呼吸を整えながら愛良の方を見た。


 愛良はちゃんと教わった通り姿勢をキレイに保っている。

 こんな風にしなきゃだめだよね、と見本代わりにした。


 あたしが格闘技を習うと言ったら、愛良もやりたいと手を挙げた。

 少し驚いたけれど、確かに本物の“花嫁”である愛良の方が危険な目に遭いやすい。

 だから一緒に頑張ろう! ということで今に至る。