×月×日


 無邪気な子供だった。
 幼き頃はまだ男の子と女の子で、そこには愛だの恋だの存在せず、ただのリリィとロナウドでしかない。 そんな同い年の気安さからいつも二人で行動していた。

 我が子爵家の庭では二つ下の小さな妹ロージーが私達の後を追い掛けるのはいつもの事で、たいてい足が縺れて芝生の上で転けるのだ。
 そして置いて行かれた悲しみと転けた悔しさで途端に大泣きして、その場で動かなくなる。

 私とロナウドは手を繋いでロージーのずっと先を走っていたから、後ろの方で泣き声が聞こえると立ち止まって振り返る。

「ロージー!」

「リリィ、お池の向こう側に行こうよ」

「でも、ロナウド。 ロージーが泣いているわ」

「ロージーはリリィの気を引きたいのさ」

「そんな事ないわ、あんなに泣いているもの」

 ロージーは甘えたがりの泣き虫で、構ってもらえないとその場でそうして動かなくなる。
 そうすれば、私が心配して近寄って来ると知っているからだ。

 それでも妹が可愛い私はロナウドの手を振り切って駆け寄る。 今度は私の後をロナウドが追い掛ける。

 ロージーは目から溢れる涙を両手の甲で懸命に拭いながらも、止まらないそれが頬をどんどん伝う。

「ロージー、もう泣かないで。 私はここにいるわ」

「リリィねぇさま……」

「大好きよ、私の可愛い妹」

「わたしもリリィねぇさまがだいすき」