「こんなの掠り傷だ。大したことない」

「でも……」

「大丈夫だよ、大したことないって」

 藍はそう言ったけど、わたしを庇ったせいでケガをしたことに間違いはない。

「藍、何でよ……。わたしと結婚してくれるんじゃなかったの?」

「誰もそんなこと言ってないだろ? お前が勝手に勘違いしてただけだ。 俺は一言も、そんなことは言っていない」

 藍がそう言うと、彼女は「そんな……。藍のこと、信じてたのに……!」と藍に向かって言った。

「ふざけるな。透子にこんなことして、ただで済むと思うなよ?」

 わたしはその場にしゃがみ込んだまま、何も言えなくて……。

「透子は俺の大事な人なんだ。愛してるんだよ、透子のこと。いいか、今回だけは見逃してやる。……だけど次、透子に何かしたり、傷つけるようなことをしたら。今度こそ俺は、お前のことを警察に突き出す。いいな?」

 強い口調で彼女に向かってそう言った藍は、怒りをこらえているようにも見えた。

「っ……分かったわよ!」

 彼女は泣きそうになりながら、その場から走り去って行った。

「透子、大丈夫か?」

「あ、おい……。怖かった……」

 正直に言うと、本当に怖かった。
 震えるくらい怖くて、本当に殺される……。そう思っただけで、どうしようもなく震えた。
 
「もう大丈夫だ。俺が付いてるから」