王都の夏はそれなりに暑い。
 前世の夏と比べるとすこぶる過ごしやすいし、氷魔法の応用を使えばクーラーの代わりにもなる。
 けれど、フリルがたっぷりとついたドレスのおかげもあって……〝夏バテ〟は存在していた。

「うぅぅ……。今日は本当に暑いわね」

 ドレッサーの前に腰掛けた私は、朝一番の身支度を手伝ってくれているエリーにそうこぼす。

「はい。すでに王都の気温は南方の最高気温よりも上がっているそうですよ?」
「それでこんなに暑いのね……。〝炎翼竜〟が王都上空に近づいてきている関係もあるのかしら? 今日が王都の通過予定日だったわよね」
「新聞によるとそうみたいです。早朝に帰宅された旦那様がそのままアルトバロンを伴って、お屋敷の守護魔法の点検に向かっていました」

 西方に住む〝炎翼竜〟は数百年に一度、群れで大移動する。

 妖精に関するあらゆる気象現象を研究している『妖精気象研究学会』が、【王国の遥か上空を〝炎翼竜〟が通過する際に熱気が発生し、全土に一時的な猛暑が訪れることになる】と発表したのは、わずか三日前。