魔力中毒から回復した翌朝。
ディートグリム家の伝統ある使用人用のお仕着せに着替え、アルトバロンがいつものようにティアベルの部屋へ向かうと、部屋の前にはいつも交代する夜勤の護衛騎士の姿はなかった。
だがその代わりに、今の時間は絶対の部屋の中にいるはずだろう主人の姿があってアルトバロンは驚く。
「おはようございます、お嬢様」
「あら? アルト、おはよう。早いのね」
深い赤色のドレスへと着替えを済ませ、燦々と降り注ぐ朝陽に輝く真珠の髪をきっちり結い終えたティアベルは、アルトバロンの姿を認めるとぱっと花が咲いたように顔を綻ばせた。
「お嬢様こそ、お早いお仕度ですね」
(この時間は、いつもならまだ眠られている頃なのに。本日の予定に何か変更でもあっただろうか? 朝は少し眠たげなお嬢様の目が完全に覚めている様子から見て、朝食も召し上がられた後みたいだ)