まったく、陽太のやつ、しょうがないんだから。

 始業前の教室は、がやがやと騒がしい。

 陽太に体操着袋を届けるために、わたしは、となりのクラスにやってきた。
 家を出たところで陽太のお母さんにつかまって、託されたのだ。
 陽太のやつ、玄関先に置きっぱなしにしたまま登校しちゃったんだって。

 陽太とわたしは、家がとなりどうし。
 おたがいのお母さんも仲良しで、小さいころからきょうだいみたいに育ってきた。
 だからわたしはこんなふうに、しょっちゅうあいつの面倒を見るはめになる。

 陽太は、自分の席でぼんやりしていた。頭のうしろのほうの髪が、ぴょこんとはねている。ほんとに、しょうがない。

 わたしは陽太の机の上に、体操着袋をどさっと置いた。

「忘れ物。いい加減ちゃんとしてよね」

 陽太は無反応。
 赤い顔してぼーっとして、心ここにあらず。

「お礼は?」
「ありがと……」

 ぜんぜん気持ちが入っていない。

「具合悪いの? 保健室いけば? 連れてってやろうか?」
「いいよ。おれの病は養護の先生にも病院の先生にも治せないから」
「寝ぼけてんの?」

 陽太はゆっくりと首を横にふった。

「おれさ。好きな子ができた」

「は……?」

 頭をがつんと殴られたみたいな衝撃。

 教室にあふれかえっていた音が、一瞬で、消えた。

「おい。おい、花菜、聞いてる?」
「き、聞いてる聞いてる」

 ようやっと、われにかえった。

「まじで可愛いんだよ。天使なんだよ。あの子のことを考えて、おれは夜も眠れない」

 陽太はため息をついた。

 本気か。本気、なのか……。

「で、だれ?」
「花菜もよーく知ってる子」

 陽太がひかえめに指さした先にいたのは。
 わたしの親友、佐々木亜里沙だった。