<グスタフ皇国・王宮・池のほとり・交流会6日目・朝7時>

早朝、
クラリスはかごを持って、
池のほとりに向かっていた。

この国の植物は、
魔女の国のとはかなり違う。

クラリスが、唯一グスタフ皇国で
モチベーションが高い物、
それは植物採集だった。

薬草になりそうなものを探したい。

初日の(うるし)では大失敗したが・・
そう言えばきのこも難しいな。
特に
薬草リキュールの新しいバージョンをつくりたい。

あと、草木染もやってみたい。
春の色とか作れるといいな。

この国には
植物に詳しい人はいるのだろうか・・
ミエルに聞いてみようかな。

それに・・
昨日のクラビィーアの演奏は
きれいだった。

アンバーとミエルが弾いていた。
音が色彩をもって、
空中に漂う感じ、
空に向かって絵を描くよう。

魔女の国にクラビィーアはない。
初めて聞いた。
グスタフの人の指先から、
あの美しい音を作り出すなんて
驚きだ。

クラリスはいろいろ考えながら、
池のほとり
近くの大きい木が見える所まで
来た。
木の根元に誰か座っている。

「イーディス!!」
クラリスは手を振った。
「・・・・」
反応がない。
こんな事はありえない。

しばらくして、
イ―ディスは力なくクラリスに
手を振った。

<こっちに来い>というのか
<あっちに行け>というのか
わからない。
ただ、
いつもと様子が違うことに
クラリスはすぐに気が付いた。

「どうしたの?・・」
イ―ディスは膝を立てて座り、
顔を下に向けている。

こんなに落ち込んでいるイーディスを見たことがない!

イーディスはつぶやくように言った。
「・・ミエルが・・俺でなく
・・あいつを選んだ・・」

「あいつって?」
「グスタフ皇国の皇太子さまだよ。アンバーだ・・」

「だって、ミエルはアンバーの使い魔なんだから、
しょうがないじゃない」

イ―ディスはクラリスのほうに
顔を向けた。
唇をかみしめている。

「アンバーはミエルを大切に扱っていない。
むしろ、邪魔者にしている!」

クラリスはイ―ディスの隣に座った。

「まぁ、あんたも(あるじ)を大切に扱ってないし・・
同じようなもんじゃないの?
・・別に私は気にしないけど」

イ―ディスの金の瞳が、強く光っている。

「あいつらはエルフの心臓を握っている!
恐怖で支配しているんだ。
許せない!!」

いつもの皮肉屋でもなく、
傲慢(ごうまん)でもなく
こんなに感情を出すイ―ディスを
見たことがない。

「ミエルを・・愛しているのね・・」
クラリスは遠くを見て言った。
やはり子供でも女の感は鋭い。

「昨日、アンバーと言い争って、
胸ぐらをつかんでしまった。
その時、
ミエルはアンバーをかばったんだ・・」

「もう・・
ミエルに会うことができない・・
絶望しかない」

「イーディス!・・」
クラリスは彼の肩を抱いた。
そのまま
イ―ディスは静かに泣いている。