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 「沙菜さんすみませんでした」

 小田が沙菜に頭を下げていた。先週あれだけの騒ぎを起こしておいて、単身でその会社にやって来て頭をさげる小田のメンタルの強さに皆がドン引きしていると、小田の上司佐々木がやって来た。

「土屋さん申し訳ない。電話でこいつがこちらに伺うと聞いて急いできたのだが間に合わず……こいつも反省しているようなので許してやってはもれえませんか?」

「あっその……頭を上げてください。小田さんが必要以上に近づくようなことをしなければ大丈夫なので……」

 沙菜がそう言うと、小田はバッと頭を上げて微笑んだ。

「沙菜さん……」

その様子を見て小田の上司がため息をついた。

「沙菜さんじゃないだろう。つ・ち・や・さん、土屋さんだろうが」

 怒りながら子供を叱るように、拳骨を小田の頭に落とした。

「いってーー!!」

「痛いじゃない。お前は……」

 コントの様になっている二人に山田がいたずらに口を挟んだ。

「小田さんて土屋さんの何処に魅かれたんですか?」

「…………」

山田の質問にみんなの視線が小田に注がれる。それから間をおいて小田がボソリと呟いた。


「……おっぱい」


 えっ……。



 えええええええーーーーーー!!!!!!



 沙菜が胸を隠すように腕をクロスするとオフィスに笑い声が響き渡った。

「「「「「「ぶああははははは!!!」」」」」」


佐々木がもう一度小田の頭に拳骨を落とすとその頭をグイグイと押さえつけ頭を下げさせた。

「すみません。こいつは仕事はできるんですが、バカなんですよ。憎めないやつなんで今後もよろしくお願いします」

クライアント側にここまで言われれば何も言えなかった。

それまで沈黙していた蒼士が口を開いた。

「こちらとしては沙菜にちょっかい出さなければ問題ありませんから……しかし今度少しでも沙菜に触れるようなことがあれば……わかっているな?」


「「「ひっ、ひいーー!!」」」


 蒼士の悪魔を思わせるような口角の上げ方とオーラを見た社員達が悲鳴を上げていた。しかし、言われた当人はキョトンとしており、本人より周りにいた社員達の腰が抜けかけていた。やはり小田は精神的なメンタルが情人よりも強いのだろうと皆が思ったのだった。