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 俺の名前は畑中樹(はたけなかたつき)二十九歳。

 同期入社の土屋沙菜と付き合っているが、回りには秘密にしている。何せあいつの見た目が地味で陰気でパッとしないためだ。そんなあいつと何故付き合ってるかって?そりゃ、あいつが使えるからだ。宣伝部で一緒に仕事をしていた頃はあいつに仕事を押しつけて楽してたっけ。嫌な顔せずに何でもしてくれるあいつを俺は彼女というよりは……都合のいい女だと思っていた。しかし、あいつが経理部に移動になってからはほとんど会うこともなくなった。

 もう潮時だな……そうと思っていた。

 別れ話をするのは面倒だから向こうが察してくれないかとゲスな考えしか浮かんでこない。

 そんな事を考えていた頃、美人受付嬢の岬(みさき)ちゃんから声がかかり、ラッキーとばかりに数回デートを重ね、家に招き入れることに成功した。二人でラブラブな時間を過ごそうとベッドに入ったとき玄関から物音が聞こえる。玄関へと向かうと、そこに立っていたのは呆然とこちらを眺めている沙菜の姿だった。

 うわーっ。やっちまったな。

 でもこれで、こいつもわかるだろう。

 俺は冷たい声で目の前のこいつに話しかけた。

「お前何しに来たの?」

 肩をビクリと震えさせた沙菜の顔がみるみるうちに青くなっていく。

 何も言わない沙菜の手から滑り落ちたのだろうスーパーの袋。

 その袋の中には食材が入っていた。

 俺のために、ご飯を作りに来たってか?

 俺は沙菜の手から滑り落ちたスーパーの袋に目を向け「はーー」っと大きな溜め息を付いた。

 こいつ、いつまで彼女面するつもりだよ。

 そこへ俺のTシャツを来た岬ちゃんがやって来た。Tシャツの下は何も着ていないだろう。

 うわっ、くそエロいな。

 そんな岬の口から飛び出したのは「何このおばさん?だれ?」という言葉だった。

 俺は「ぷっ」と吹き出しそうになるのを必死に堪えた。

 それから岬ちゃんにベッドに戻るように促しているといつの間にか玄関から沙菜の姿は消えていた。

 さあ気分を変えてと思ったのだが、岬ちゃんは怒って帰ってしまい最悪の結果となった。俺はこのい苛立ちを押さえることが出来ずあいつに電話をかけた。

「お前さーどういうつもりよ。やっと美人受付嬢口説き落としたってのに」

何も言わない沙菜にイライラが募っていくが、岬ちゃんの機嫌をどうやって取ったら良いのかわからない。最後に役に立ってもらうか、一応は女同士だし少しは相談に乗ってもらうか。

「岬ちゃんに何てメールすれば良いと思う?機嫌取るならプレゼントの方が良いかな?どうしたらいいと思う?」

「……」

 なんで何も言わないんだ?

 ホントこいつなんなの?

 なんて使えないやつ。

 苛立ちが更に募っていく。

「お前話聞いてる?全然役に立たないな。あっそうだ合鍵返して、彼女面されるの迷惑だから」

 俺は一方的に電話を切った。