新居に引っ越してきてからはや2日。引っ越しが終われば帰ると言ったはずの透也は、変わらず視えている。
話が違うんですけど……。
私は複雑な気持ちでため息を吐くと、コンロの火を止めた。
私が一貴さんと共に新居に引っ越したのは、ユーレイになった透也とデートをした1ヶ月後のことだった。
一貴さんとの生活を始めるまでの1ヶ月間、私は一貴さんに不審に思われない程度に、透也との時間も作るようにした。
残りわずかしかない透也との時間を後悔のないように過ごしたいと思ったからだ。
透也と一緒に通勤したり、仕事帰りにたまにちょっと寄り道したり、部屋で一緒にテレビを見たり、寝るまでくだらないことを話したり。
お互いに、二度目の「さよなら」に向けて心の準備をしていった。
それでも、新居に引っ越す前日の夜は、透也との別れが淋しくて恋しくて、深夜を過ぎてから潜り込んだベッドの中で我慢できずに泣いてしまった。
透也は私が声を殺してひとりで泣いていることに気付くと、するりと布団の中に滑り込んできて、温度のない両腕で私を抱きしめてくれた。
冷たい空気が身体を少し冷やしたけれど、透也に抱きしめられていると思うと徐々に気持ちが落ち着いた。



