『新居に引っ越すの、いつ?』

「遅くても、1ヶ月後」

『そっか』

ぼそりとつぶやいた透也が淋しそうに目を細めるから、私も切なさで胸が詰まった。


『暖乃が千堂のところに引っ越すときに、おれも帰る。だけど、それまではそばにいていい?』

ちゃんと現実を見ると決めたのは私だから。淋しげに笑う透也を抱きしめたいと思う気持ちを堪えて、必死に頷く。


「ありがとう、透也。私もひさしぶりのデート楽しかったよ。また会えて、本当によかった」

泣きそうになるのを我慢して不器用に笑いかけると、透也が私の肩にふわりと両腕を回した。

揺れる空気で、触れられなくても透也に抱きしめられているのがわかる。

だから私も、透也と抱きしめ合ったときの感覚を思い出して彼の背中に腕を回した。

透也といられる時間は残りわずか。

透也が帰ってしまうのは淋しいけれど、覚悟を決めた二度目の「さよなら」なら、一度目よりもうまくできる気がする。