私がじっと黙り込んでいると、やがて透也が肩をすくめて息を漏らした。

『わかった』

私の前に現れてから、ずっとしつこく一貴さんとの婚約破棄を訴えていた透也が諦めたように首を横に振る。


『暖乃、今日は付き合ってくれてありがとな。ひさしぶりに暖乃とデートできて楽しかった。でも……、暖乃にしか見えないおれが、いつまでもそばにいるっていうのはやっぱり限界もあるよな』

僅かに眉間を寄せた透也が、渇いた声で笑う。

『本当はちゃんとわかってたよ。一緒に映画見ながら手だって繋げないし、カフェラテだって飲めねーんだもん』

映画で手、って……。

透也、映画館で私が手を繋ぐ真似事をしてたことに気付いてたんだ。完全に寝てると思ってた。

恥ずかしくなるのと同時に、透也は本当は私が敢えて口にしない気持ちにも気が付いているんじゃないか、って思う。

一貴さんとの結婚報告を聞いて憑いて来ちゃうような、ヤキモチ焼きなところがある透也なのに。最後にはちゃんと、私がいるべき場所での幸せを願ってくれるんだ。

もしかしたら結婚前のタイミングで透也の姿が視えるようになったのは、私たちが納得のいくカタチできちんと「さよなら」をするためなのかもしれない。