そして、昨日の夕方頃からミレイナが産気づき、定期的なお腹の痛みを訴え始めた。すでにいつ生まれても大丈夫なように万全の体制で待機していた医師と助産師達によってミレイナは出産の準備に入ったわけだが、そこに駆けつけたジェラールがやらかしたわけである。

 痛みに苦しむミレイナを見て動揺し、こともあろうか無意識に魔法を発動して医師と助産師を吹き飛ばした。全員無傷だったからよかったものの、あわや大惨事である。
 そして、ジェラールは出産の邪魔であると入室禁止処分となった。 

「もう日付が変わる。遅すぎないか?」

 ジェラールが、先ほどと同じ台詞を呟く。その指先は落ち着きのなさを表すように、艶々と光る木製の執務机をトントンと忙しなく叩いていた

「今度は、先ほど同じ質問されてから四分三十二秒です」

 静かに告げるラルフに、ジェラールは眉根を寄せる。
 いつの間にそんなものを計っていたのか!

埒があかないからやっぱり様子を見に行こうとジェラールが立ち上がったそのとき、ドアがノックされる。

「陛下、ミレイナ様が先ほど無事に──」

 その言葉を聞き終わらないうちに、ジェラールは部屋を飛び出してミレイナの元に向かう。ばしんと勢いよく目的の部屋のドアを開け放つと、ベッドに横たわるミレイナの姿が最初に目に入った。