〝また戻ってきてしまった〟
 フィオナは、目を開けてそう思った。

 赤地のタペストリーが石壁にかけられた豪華絢爛なこの部屋は、ブライト王国の謁見の間であり、目の前の玉座には父が座っている。周囲には政務官を勤める貴族や近衛兵が並び、政略結婚を告げられたフィオナに対し、痛ましい視線を向けていた。

「もう一度、おっしゃっていただけますか? お父様」

 膝をついているフィオナは、現状を把握するために、父を見上げた。父王は疲労を隠さず、眉間に手をあてたまま、深いため息をつく。

「……オズボーン王国から和解の提案だ。講和条約を結ぶにあたり、王太子オスニエル殿の側妃として、お前を迎え入れたいと仰せだ。オスニエル殿は二十六歳。側妃とは言え、まだ正妃を娶ってはおらず、実質お前が最初の妻となる」

 王座に座る父は、苦渋の表情を浮かべている。仮にも一国の姫が、正妃ではなく側妃として迎えられることの意味を考えれば、それは当然とも言えよう。

(やっぱり、政略結婚の打診の時点に戻るのね)

 フィオナは納得して、胸のあたりに手をあてる。
 先ほどまで、フィオナは嫁ぎ先のオズボーン王国の後宮で、夫の正妃から盛られた毒に苦しんでいたのだ。喉をかきむしりながら、自分の死にざまを嘆いて目を閉じ、死んだ。
 そして、次に目を開けた瞬間が今である。